1930年代のロマンチック・コメディ(9本)
2021/04/07
或る夜の出来事
IT HAPPENED ONE NIGHT
1934年(日本公開:1934年08月)
フランク・キャプラ クラーク・ゲイブル クローデット・コルベール ウォルター・コノリー ロスコー・カーンズ アラン・ヘイル ウォード・ボンド
フランク・キャプラとコロムビア社を一躍一流に押し上げた大ヒット作。
ロマンチック・コメディの古典、元祖ツンデレ。
バスを降りてからの後半のテンポのよさ。いつ見ても、何回見ても面白い。
(そんなに本数多く見ていないけど)クラーク・ゲーブルは本作がいちばん格好良い。ゲーブルを真似てワイシャツの下にアンダーシャツを着ない男が増え、下着メーカーから苦情があったとか。ヒロインの父親(大富豪)が彼を気に入ったのと同じように、本作のゲーブルは男性客にも受け入れられた。
今回は、横顔は左側からしか撮らせなかったというクローデット・コルベールをチェックしながら見た。やっぱり左からの横顔が多い。が、右のカットも少しだけあった。
DVD特典に入ってたキャプラ・Jrの解説によると、ジェリコの壁は台本になく、コルベールが撮影中に出したアイデアだったという。
製作された1934年は「キング・コング」の翌年。
この映画でも背景に大恐慌時代のアメリカが描かれている。
70点
#ハリウッド映画の巨匠:フランク・キャプラ
#1930年代のロマンチック・コメディ
2022/01/03
お人好しの仙女
THE GOOD FAIRY
1935年(日本公開:1935年05月)
ウィリアム・ワイラー マーガレット・サラヴァン ハーバート・マーシャル フランク・モーガン レジナルド・オーウェン アラン・ヘイル ボーラ・ボンディ シーザー・ロメロ アン・ミラー
養護施設で育った世間知らずな女の子(マーガレット・サラヴァン)が、映画館で働くことになる。仕事中に知り合ったホテルの給仕係(レジナルド・オーウェン)からパーティの招待状を貰う。初めて目にする豪華なパーティに戸惑う彼女に、大企業を経営するおじさま(フランク・モーガン)が言い寄ってくる。身を守るために「夫がいるの」とついた嘘が、下町の貧乏弁護士(ハーバート・マーシャル)を巻き込んで、ぐちゃぐちゃドタバタに発展する。
堅物なイメージのウィリアム・ワイラー(「女相続人」「ベン・ハー」「大いなる西部」)とスクリューボール・コメディのプレストン・スタージェスの脚本で、どんな仕上がりになってるのか不安もあったが、これが意外と面白い。スタージェス本人の監督作と見間違えそうなくらいにマッチしている。
ワイラーは腕の良い職人監督、なにを撮ってもやっぱり上手い。
登場する3人の男たちは、みんな善良でお人好し。ヒゲを剃ってグッと若返るハーバート・マーシャルの変身ぶり。レジナルド・オーウェンとフランク・モーガンが最高にくだらなくて面白い。この二人の漫才だけでも見た甲斐があった。合わせ鏡に映ったキツネの襟巻きを喜ぶマーガレット・サラヴァンが可愛らしく微笑ましい。
ラストはお決まりの結婚式。花嫁を祝う孤児たちの笑顔が輝いている。
他愛のないバカバカしいストーリーだが、スタージェスの脚本だから通常映画の3倍量のアイデアが突っ込んである。
「FAIRY」を「仙女」と訳した邦題に、時代(昭和10年)を感じる。
65点
#ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー
#1930年代のロマンチック・コメディ
2021/04/07
オペラハット
MR. DEEDS GOES TO TOWN
1936年(日本公開:1936年05月)
フランク・キャプラ ゲイリー・クーパー ジーン・アーサー ジョージ・バンクロフト ライオネル・スタンダー ダグラス・ダンブリル メイヨ・メソット レイモンド・ウォルバーン ウォルター・キャトレット H・B・ワーナー
アメリカの良心と呼ばれたキャプラ&ロバート・リスキン・コンビの快作。
高級仕立てのスーツが似合う素朴な田舎者なんて難しい役をこなせるのは、ゲイリー・クーパー以外に誰がいる?
前半はスクリューボール・コメディ。恋愛が破局となる展開から、大恐慌時代を反映させた社会派タッチに切り替わる鮮やかさ。
権力者を寄ってたかって茶化して貶めるマスコミの行為は、いまも変わらない。
富める者が貧しい人々に手を差し伸べる行為が異常ととられてしまう状況は、いつの時代にもある普遍のテーマ。
久しぶりに見たが、やっぱりキャプラは良い。
テンポ早過ぎな気がしないでもない。
65点
#ハリウッド映画の巨匠:フランク・キャプラ
#1930年代のロマンチック・コメディ
2022/06/21
恋は特ダネ
LOVE IS NEWS
1937年(日本未公開)
テイ・ガーネット タイロン・パワー ロレッタ・ヤング ドン・アメチー スリム・サマーヴィル ジョージ・サンダース ジェーン・ダーウェル ステッピン・フェチット ポーリン・ムーア エリシャ・クック・Jr ダドリー・ディッグス ウォルター・キャトレット
特ダネを狙いの取材で新聞記者に騙された富豪令嬢が、仕返しに「私は彼と婚約した」とガセネタを他社にリークする。しがないヤクザな記者が全米一の金持ちと結婚かと、一躍注目の的となって取材される側に立場が逆転。
ハリウッド黄金期の人気スター、タイロン・パワーとロレッタ・ヤングの共演のスクリューボール・コメディ。
新聞記者と富豪令嬢のカップルは「或る夜の出来事」と同じ。
1930年代は新聞記者が主人公な映画が多い。
金持ちなヒロインが留置場に入る話は「赤ちゃん教育」よりも1年早い。
令嬢と新聞記者が仲違いしながら、お互いに恋愛感情が芽生える過程をどのように展開させるのか、脚本家の腕の見せどころ。
製作当時のファンションや風俗(クレーンゲームやスロットマシンなど)が楽しめる。
ハリウッド黄金期には年間10本くらい主演作があったタイロン・パワーとロレッタ・ヤング。ゲイリー・クーパー、クラーク・ゲーブル、ジェームズ・スチュワート、ケイリー・グラントと並ぶスターだったタイロン・パワーだけど近年は人気が落ちてる。
ロレッタ・ヤングも、クローベット・コルベール、ジンジャー・ロジャース、バーバラ・スタンウィック、キャロル・ロンバード、キャサリン・ヘプバーンあたりに比べると、ずいぶん知名度が下がってしまった。
監督のテイ・ガーネットも多作で、1930-40年代に数多くの映画を撮っているのだが、いまでは「郵便配達は二度ベルを鳴らす」くらいでしか名前を知られていない。
半地下のバーから出ていったタイロン・パワーを、自動車を避け通行人をかき分けながら追いかけるロレッタ・ヤングの移動撮影がダイナミックで良かった。
衆目を浴びながらのキスでハッピーエンド。
ダリル・F・ザナックの20世紀フォックス製作。
別題「狙はれたお嬢さん」。
60点
#1930年代のロマンチック・コメディ
2022/01/04
モーガン先生のロマンス
VIVACIOUS LADY
1938年(日本未公開)
ジョージ・スティーヴンス ジェームズ・スチュワート ジンジャー・ロジャース ジェームズ・エリソン ボーラ・ボンディ チャールズ・コバーン フランセス・マーサー グラディ・サットン ジャック・カーソン フランクリン・パングボーン
真面目一辺倒の大学助教授(ジェームズ・スチュワート)がナイトクラブの歌姫(ジンジャー・ロジャース)に一目惚れ。ふたりはお互いに惹かれ合い、出会って12時間で結婚。しかしジミーには大学長の父親(チャールズ・コバーン)が決めた許嫁(フランセス・マーサー)がいて、心臓病の母親(ボーラ・ボンディ)も心配で、なかなか結婚の報告ができない。
誠実真摯なイメージのジョージ・スティーヴンス(「陽のあたる場所」「シェーン」「ジャイアンツ」「アンネの日記」)だけど、RKO時代はアステア=ロジャースの「有頂天時代」だって演出している腕の良い職人監督。ロマコメ撮ってもやっぱり上手い。
ファーストシーンのナイトクラブのダンサーズ、ジンジャーの登場させかた、女同士のビンタの張り合い、ジンジャー、ジェームズ・エリソン、ボーラ・ボンディが並んで腰振りダンス、面白いシーンが多い。
ちなみにおれは、アステアとコンビで踊ってるミュージカル映画のジンジャーよりも本作のジンジャーのほうが好みであります。
60点
#1930年代のロマンチック・コメディ
2021/04/10
我が家の楽園
YOU CAN'T TAKE IT WITH YOU
1938年(日本公開:1939年04月)
フランク・キャプラ ジェームズ・スチュワート エドワード・アーノルド ジーン・アーサー ライオネル・バリモア アン・ミラー ミシャ・オウア スプリング・バイイントン ドナルド・ミーク ハリウェル・ホッブス ダブ・テイラー サミュエル・S・ハインズ ハリー・ダヴェンポート ウォード・ボンド
ジョージ・S・カウフマンとモス・ハートが合作した舞台劇の映画化。
脚色はロバート・リスキン。
木偶の坊ジミー・スチュワートとジーン・アーサーの恋愛をメインに置いたストーリーではあるけど、その周りを囲む騒々しく奇矯な人々が、めまぐるしく動き回り、特に序盤のバタバタした展開が呑み込みにくく纏まりが悪い。
風刺、恋愛、ギャグ、そのどれもがそこそこな仕上がり。キャプラの本音(理想)がそのままセリフになっている印象。全体の造りはあまり良い出来とはいえない。
しかしながら、ライオネル・バリモアとエドワード・アーノルドがハーモニカを吹く場面に、やっぱりキャプラは良いなぁと、しみじみ感動させられてしまう。
毎夜晩飯をたかりに来るロシア人バレエ教師役のミシャ・アウアが面白い。
計算係ドナルド・ミークが作ったウサギの玩具が可愛い。
タイプした原稿の文鎮代わりになってる子猫も可愛い。
他にも賢いカラスとか、子どもダンスのカードとか、花火とか。
小道具、ディティールが面白い映画だった。
65点
#ハリウッド映画の巨匠:フランク・キャプラ
#1930年代のロマンチック・コメディ
2022/01/04
素晴らしき休日
HOLIDAY
1938年(日本公開:1939年02月)
ジョージ・キューカー キャサリン・ヘプバーン ケイリー・グラント ドリス・ノーラン リュー・エアーズ エドワード・エヴェレット・ホートン ヘンリー・コルカー ビニー・バーンズ ジーン・ディクソン ヘンリー・ダニエル ジャック・カーソン
ケイリー・グラント&キャサリン・ヘプバーン主演のロマンチック・コメディ。
フィリップ・バリーの舞台劇を、ドナルド・オグデン・スチュワート&シドニー・バックマンによる脚色で映画化。監督はジョージ・キューカー。
スキー場で知り合い結婚の約束をした女性(ドリス・ノーラン)の住所を訪ねてみれば、バカでかいうえに豪奢な室内装飾が施された5階建て(地下1階)エレベーター付きの豪邸。姉のヘプバーン、酔いどれ弟のリュー・エアーズ、堅物事業家の父親ヘンリー・コルカーが紹介されるあたりまでは快調だったが、そのあとがグダグダ。
大恐慌時代の娯楽作品ゆえ、貧しくとも幸せな人生が大事なのよと庶民の生活を持ち上げ、金持ち資本家を頭ごなしに批判するのは尤もなれど、直截すぎて芸がない。
「フィラデルフィア物語」もそうだったけど、ジョージ・キューカーの演出は、このタイプの恋愛喜劇としては軽みと洒落っ気が足りない。
邦題の付け方が下手。「Holiday」はクリスマス・シーズンの、つまり「年末年始の休暇」。「素晴らしき休日」だと日曜日みたいで、黒澤明の「素晴らしき日曜日」と混同しちゃいそう。
ワイルダーの「麗しのサブリナ」は本作の男女裏返しヴァリエーション。
60点
#1930年代のロマンチック・コメディ
2021/04/13
赤ちゃん教育
BRINGING UP BABY
1938年(日本公開:1939年08月)
ハワード・ホークス ケイリー・グラント キャサリン・ヘプバーン チャーリー・ラグルス メイ・ロブソン バリー・フィッツジェラルド ウォルター・キャトレット フリッツ・フェルド ウォード・ボンド ジャック・カーソン
なんともエネルギッシュな、ハワード・ホークス監督のドタバタ・ラブコメ。
キャサリン・ヘプバーンの狂騒的なお喋りと行動が、古代生物学者のケイリー・グラントとストーリーを引っ掻き回し、1時間42分を休憩抜きで突っ走る!
脚本はダドリー・ニコルズとヘイガー・ワイルド。
1リットル缶に3リットル分のアイデアを注ぎ込んで、無理と無茶と無謀な試み。
見終わってヘトヘトに疲れてしまい、なにも書く気がしない。
豹(ベビー)をなだめる歌は「I Can't Give You Anything But Love, Baby」。
所有ライブラリを調べたら、ビリー・ホリデイ、ルイ・アームストロングから、コニー・エヴァンス、ソフィー・ミルマンまで、32曲も持ってたわ。
65点
#1930年代のロマンチック・コメディ
2021/04/10
スミス都へ行く
MR. SMITH GOES TO WASHINGTON
1939年(日本公開:1941年10月)
フランク・キャプラ ジェームズ・スチュワート ジーン・アーサー クロード・レインズ エドワード・アーノルド ガイ・キビー トーマス・ミッチェル ユージン・パレット ボーラ・ボンディ ハリー・ケリー H・B・ワーナー チャールズ・レイン ポーター・ホール ジャック・カーソン
「我が家の楽園」に続き、ジェームズ・スチュワート&ジーン・アーサー主演。その他、脇で出ている役者数名がカブっている。「我が家の楽園」と続けて見たから、政財界の黒幕を演じているエドワード・アーノルドに「あんた、さっき改心したんじゃなかったの」と言いたくなった。
義理と良心の板挟みに立ちながら悪役にならざるを得ないペイン上院議員役のクロード・レインズが抜群によい。議長のハリー・ケリーは儲け役だろう。
素朴な田舎の青年が都会に出て大恥をかき、誠実と良心を武器に大逆転するストーリー。
田舎者を馬鹿にしつつ、その無垢なる誠実さに惚れてしまう女性を「オペラハット」と同じくジーン・アーサーが演じている。前作で描かれた財界の舞台を政界に置き換えただけのようにも思える。
ユーモアと恋愛が少なくなって悪役の悪どさが強くなったぶん、シリアスな印象だが、「ポケット一杯の幸福」(「一日だけの淑女」)と同様、ありえない良心が唐突に現れて、どんでん返しのファンタジー。
とは言え、ご都合主義の一言で片付けるのは勿体ないと思わせるのがフランク・キャプラのマジック。斜に構えてバカバカしいと口に出す自分が嫌になる。
理想の夢を見ることの楽しさ、素晴らしさ。嘘話と分かっていながらも、心の底ではそれを欲している。まだそこまで自分はヒネてないぞ、いまでも何処かに純真なものを持っているんだぞ、と。
主人公の主張は真摯な正義のように見えるけど、一方大恐慌時代にあって、失業者雇用対策のダム建設が(悪役の私利私欲が裏にあるとはいえ)子どもたちのキャンプ場に潰されてしまうのは、それはそれで歪んでいるようにも思える。
政治が人情に動かされたら、やっぱりいかんでしょう。
わざわざ田舎から連れてきた伝書鳩は(編集段階でカットされたのか?)活躍の場がなかったね。
日本公開は日米開戦直前の1941年10月。
70点
#ハリウッド映画の巨匠:フランク・キャプラ
#1930年代のロマンチック・コメディ