ヒッチコックの映画術(2)(3本)
2021/07/08
レベッカ
REBECCA
1940年(日本公開:1951年04月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョーン・フォンテイン ローレンス・オリヴィエ ジョージ・サンダース ジュディス・アンダーソン グラディス・クーパー レオ・G・キャロル ナイジェル・ブルース
デヴィッド・O・セルズニック謹製、スリラー風味文芸ロマンス。
アルフレッド・ヒッチコック、アメリカ上陸初監督作品。
マンダレー城の城主マキシム・ド・ウインター卿をローレンス・オリヴィエが演じ、彼に見初められる新妻にジョーン・フォンテイン。
むかし見たときは(ストーリーを知らずに見たので)家政婦のダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)が強烈に怖かったが、いま見るとそれほどでもない。
美術はセルズニックの面目躍如、素晴らしく立派で見事なもの。製作は「風と共に去りぬ」と同時進行だったと思うが、ライル・ホイラーの仕事ぶりは流石の一言。誰の監督作品であろうと、ひと目でセルズニック映画とわかるのは、彼が美術監督だからこそ。セルズニック・ブランドの看板を背負っている。
セルズニックのお仕着せ企画で、あまり乗り気じゃなかったみたいな発言を残しているヒッチコックだが、なかなかどうして、ダンヴァース夫人が自殺を教唆する場面、ド・ウインター卿が先妻レベッカが死んだときの様子を語るボート小屋の場面などに、ヒッチの技が光っている。
モンテカルロで知り合ったフォンテインとオリヴィエが結婚するに至る第1幕が少々かったるい。マンダレー城に入ってから先妻の幻影に翻弄される第2幕がジョーン・フォンテインの魅力で最大の見所。
裁判劇となる第3幕はヒッチコックらしいミステリー仕立てではあるものの、これといった趣向もなく、ストーリーをなぞるだけで平凡。
ここでオリヴィエを強請るレベッカの従兄弟を演じているのは、ヒッチの次回作「海外特派員」で現地特派員役だったジョージ・サンダース。ロバート・ヴォーンをちょいともっさりさせた感じ。
レベッカが末期ガンで自暴自棄になっていたとの証言を得て、ド・ウインター卿の死体遺棄の罪まで揉み消してしまう強引なオチは(トーキー第1作の「ゆすり」と同様)、ヒッチらしいアンモラルなハッピーエンド。
狂ったダンヴァース夫人が火を放ちマンダレー城が焼失してしまうラストまで、原作者ダフネ・デュ・モーリアがシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」を下敷きにしていたことは間違いない。
その「ジェーン・エア」は、1944年版でジョーン・フォンテインがタイトルロールをつとめている。彼女がいいのは断然「レベッカ」。本作でのフォンティンのキャスティングはセルズニックから押し付けられたものだったろうけど、ヒッチは「断崖」でも彼女をヒロインに起用している。
ヒッチコックは女優を魅力的に見せる名人。ヒッチ作品の出演がこの2作のみというのは残念。ヒッチコック映画でもっとジョーン・フォンテインを見たかった。
65点
#特集 ゴシック・ロマンス
#ヒッチコックの映画術(2)
2021/07/10
断崖
SUSPICION
1941年(日本公開:1947年02月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョーン・フォンテイン ケイリー・グラント ナイジェル・ブルース セドリック・ハードウィック デイム・メイ・ウィッティ イザベル・ジーンズ ヘザー・エンジェル レオ・G・キャロル
フランシス・アイルズのミステリー小説「犯行以前」の映画化。
ロンドン社交界の人気者(実は詐欺師)と恋に落ちた富豪令嬢は、相手の素性もよく調べないまま両親の反対を押し切り駆け落ち結婚する。新婚旅行から帰ってくるとすぐに、男が無職で信用ならないことが分かってくる。親戚の紹介で就職した会社の金を使い込んで競馬場通いしたり、結婚祝として実家から贈られた由緒あるアンティーク椅子も勝手に売り払ってしまう。不動産取引のパートナーがパリで事故死したと知って、自分も財産目当ての結婚で、近いうちに殺されるのではないかと疑いだす。
不安に怯える新妻を「レベッカ」「ジェーン・エア」のジョーン・フォンテイン。
屈託ない笑顔だけが取り柄のお調子者の夫を「赤ちゃん教育」「ヒズ・ガール・フライデー」などに出演していたケイリー・グラント。これがヒッチコック映画初出演。
ジョーン・フォンテインの母親を演じているのは「バルカン超特急」のミス・フロイ(デイム・メイ・ホィッティ)。彼女のヒッチ映画への出演はこの2本だけらしい。
ドキドキの疑心暗鬼とユーモアの波状攻撃。光る牛乳、断崖絶壁の暴走。ヒッチコックの卓越した「映画術」に好き勝手に操られ、手玉に取られる。
むかしむかしに見たときは、陽気で挙動不審なケイリー・グラントの芝居がどうにも作為的で、その不自然さにピンとこなかったが、スクリューボール・コメディ全盛期の時代だからこそのケイリー・グラントと知って見れば、納得できるキャスティング。
本作と前後して製作された「赤ちゃん教育」「ヒズ・ガール・フライデー」「毒薬と老嬢」といったケイリー・グラント主演映画の流れの中に「断崖」を置いたとき、本作はスクリューボール・コメディとサスペンスを、ヒッチコックが意図的に融合させた異色作として認識される。
65点
#ヒッチコックの映画術(2)
2021/01/18
舞台恐怖症
STAGE FRIGHT
1950年(日本未公開)
アルフレッド・ヒッチコック マレーネ・ディートリッヒ ジェーン・ワイマン リチャード・トッド マイケル・ワイルディング アラステア・シム ケイ・ウォルシュ パトリシア・ヒッチコック アンドレ・モレル
日本未公開(製作は1950年)だったので、あまり期待していなかったのだが、なかなか面白い素人探偵もの。舞台はロンドン。
貫禄の美貌を誇るディートリッヒと並ぶと、ヒロイン(ジェーン・ワイマン)は地味で見劣りがする。お茶目さが足りてないのか。幼いゆえの無鉄砲と危うさが、もう少し欲しかった。
ディートリッヒは、この映画でも「バラ色の人生」他を歌う。
ヒッチはワイマンよりディートリッヒを美しく(ディートリッヒらしく)撮ることに一生懸命だったのだろう。
刑事(マイケル・ワイルディング)と容疑者(リチャード・トッド)に、もう少し個性が欲しい。リチャード・トッドはアンソニー・パーキンス成分が不足してる。
二人の若い男性とは対象的に、父親役のアラステア・シムがいい。一人娘の父親役としては「昼下りの情事」のモーリス・シェバリエと並ぶ好演。今年の助演男優賞候補。
65点
#ヒッチコックの映画術(2)
#マレーネ・ディートリッヒ3本立て